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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子は、刃のごく鈍い大きい桑切の庖丁のようなもので、からだを、刻まれるような痛苦を感じた。

「――くるしい」

そういって、伸子はもっと空気を求めるように白いやわらかいのどをのばして顔をあおむけた。

「だめだよ、ぶこちゃん! しっかりしなくちゃ」

「しっかりしている……でも――苦しい」

「…………」

「かわいそうに……」

心からそういって伸子は、眼にいっぱい涙を浮べた。

「ある旧友への手紙」は、びっくりするほど素朴に気取らない文章でかかれていた。日頃のこの作家につきものであり、それが伸子に親愛感を失わせていた文章のいいまわしの知的なポーズがなくて、「僕の場合はただボンヤリした不安である、何か僕の将来に対するただボンヤリした不安である」と、自殺を思いはじめた心理的な動機がかかれていた。「僕はこの二年ばかりは死ぬことばかりを考えつづけた」「気づかれないうちに自殺するために数ヵ月準備したのち、自信に到達した」「僕は冷やかにこの準備を終り、今はただ死と遊んでいる」「僕は昨夜ある売笑婦と一緒に彼女の賃銀! の話をしみじみし、『生きるために生きている』吾々人間のあわれを感じた」