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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
「自然はこういう自分にはいつもより美しい。僕は誰よりも見、愛し、且つ理解した。それだけ苦しみを感じたうちにも僕には満足である」伸子はくりかえして、それらの文章の断片をひろいあげた。自殺の準備について、「僕は冷やかにこの準備を終り」とかかれている。何と思いがけないおさなおさなした天真さだろう。これまで自殺したどっさりの青年たちが、この冷やかにという自分の状態を遺書のうちにかいて来たのではなかったろうか。理智的な技巧と措辞の新奇さを一つの特色として来た彼がそれを、陳腐ともしないで誠心こめて自分の最後の文章のうちに書いている相川良之介のてらいのなくなった心。そしてまた、「僕は誰よりも見、愛し、且つ理解した。それだけ苦しみを感じたうちにも僕には満足である」と、ほんとに誰にでもその感じのわかるいいかたで一生をしめくくる最後の思いを語っている。「ある旧友への手紙」は伸子に、桃や柿の種のしんにある真白な芽を思わせた。作品にあらわれる相川良之介、或は作家相川良之介の趣味は低くなかったけれども、そこにはいつも人為的なものが感じられた。殻がくだけた最後に、はじめて白い、いじらしい、淳朴な人間性のふた葉がむき出された。