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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
あんまり人につきあう習慣のない伸子は、佐保子にだけはおりおり会いに行った。
いつだったか、現代作家の話が出たとき、佐保子は、きわめつけの語調で、
「相川良之介だけは本ものですよ」
と云った。
「あのひとはまがいものではありませんよ。この間うちへ見えたとき、作品が古典としてのこるかのこらないかは、その作品のスタイルによるっていっていましたよ。それは本当だと思うわ」
そして、笑いながら、
「古典になると思ったら、伸子さんもきちんとしたスタイルをもつことですよ」
冗談のように云った。伸子は、いかにも相川良之介のいいそうなことだと思い、
「そうお」
と笑ったが、すぐ、ふっと、それは彼が本気でいったことだったのかしら、と疑われた。文学作品がスタイルだけで古典としてのこるなどということを、伸子としては信じかねた。相川良之介には、彼が彼の背負っている文学的後光そのものをさえ皮肉に感じている口調でいうために、非常に辛辣な諷刺だったり逆説だったりするのに、きくものは文学上の箴言のように考える場合があった。周囲にそういう習慣が出来ているばかりでなく、相川良之介自身、孤独な知的焦躁とでもいう風な意地わるさにとらわれることがあるらしかった。