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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

いまになってみれば、それは「ある旧友への手紙」の中にいわれているとおり三年がかりの死への準備行動の一記録であった。よだれをながしながらも、正気を失わず、一歩一歩と死に入って行っている人間の文章が、どうしてもっときのままの恐怖でよむものをうたなかったろう。すべてが、こんなにあるままにかかれていて、それだのに、相川良之介は、どうしても文学的姿態からぬけられなかった。

率直に、漠然とした本質をそのまま「ただボンヤリした不安」と告白されているとりとめない不安を相川良之介が自分の将来にたいして感じはじめたとすれば、それは、彼の聰明さが、才能的な聰明の限界というものを直感しはじめたからではなかったのだろうか。そう考えつめれば伸子にもわかるところがあった。

けれども、やはりわかりきらなかった。彼のような博識と聰明とが、なぜ自覚されはじめた限界感の内側にとどまっていなければならなかったか。そこのところがわからなかった。相川良之介が、生活と文学との上に追随を許さない独自のものとして画して来たスタイルを、こわすまいとして、死を選んだというより、死にまで自分を追い立ててゆく過程で、もしや自分が自分をぬけ出ることがありはしまいかという期待がもたれたのではなかったか。