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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「お母様、保さん、ぜひ一緒につれていらっしゃいよ」

「ああ、わたしもそう思っていたらね、ドイツ語の講習会がすんだら、珍しく今年は東大路さんなんかと、しばらく野尻湖の夏季寮へ行くんだとさ。あっちは、これからだそうだよ」

多計代は、その叔父の著書で知っている東大路という名に、自分の安心をもたせかけているような調子でいった。和一郎の方は、十日ばかり前から湘南にある飯倉の伯父の別荘に行っているらしかった。漆細工で柿の実を飾った小ひきだしの上に、和一郎がペンで描いた西瓜泥棒の漫画エハガキがのっていた。いろいろ愉快にやってます、と文句は簡単であるけれども、小枝やその兄弟、従弟たち若いものばかりの無邪気で野放図な昼夜の情景――そのエピソードには西瓜どろぼうもはいっているらしい賑やかさが偲ばれた。彼らのところには正真正銘の夏があるらしかった。

多計代が、

「吉見さんはこのごろどうだい?」

と、きいた。

「きょうは、一緒じゃなかったのかい?」

「あのひとは京都へ行ったわ」

「――へえ」

それは、皮肉の用意された調子であった。

「なにか京都にあるのかい」

伸子は、

「親があるわ」

と、ぶっきら棒にいった。