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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

けれども、伸子には、自分が相川良之介の全貌を底の底からつかんでいるのではないという漠然とした自覚があった。「ある旧友への手紙」の中にこういうところがあった。「ただ僕にたいする社会的条件――僕の上に影をなげた封建時代のことだけは故意にそのなかに書かなかった。なぜまた故意にかかなかったかと云えば、吾々人間は今日でも多少封建時代の中にいるからである。のみならず、社会的条件などはその社会的条件のなかにいる僕自身に判然と判るかどうかも疑わないわけにはゆかないだろう。」こういうところは、伸子に字づらでしかわからなかった。伸子は、封建時代という意味をぼんやり「昔」としか理解していなかった。従って、相川良之介のいっている意味はよくのみこめず、その十分のみこめない文章の中で伸子によくわかるひとつのことは、自分によくわからないことについては書かないものだ、と語っている相川良之介の態度であった。この暗示に従えば、伸子として相川良之介についての感想などを書くのは礼儀でもないし、自分に忠実でもない、ということになった。しかし、伸子とすれば、自分にまでそういう暗示をなげる相川良之介の聰明そのものに非肯定を感じるのであった。