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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「工合よく行って?」

「――ひとり角力とって来たみたいなところがあってね」

予定していたほど、素子が分配される財産がなかったらしかった。

「まるで駄目?」

「そんなことはないさ!――それゃ、わたし一人ぐらいはなんとかなりますがね」

わたし一人ぐらい、という言葉に伸子はおどろいた。

「一人ぐらいって……」

では、素子は、伸子の外国旅行の費用も、自分の分から賄おうと思っていたのだろうか。

伸子はあわてて、

「そんなこと出来ないことだわ」

といった。

「とても、わたし、出来ないわ。わるいわ。それに――」

よしんば素子に十分の金があろうとも、伸子はその金で自分が外国を旅行するということは考えられないのであった。

「ぶこちゃんは、そう思うような人さ。だけれどね、金は、金さ! そうだろう? 使える金を一番よく使うのが功徳というものさ。――うちの親父も、どうせろくな金をためちゃいないにきまっているが、まさか、さわって穢れるほどの悪銭でもないだろう」

「そういう意味じゃなくさ」

伸子は、すこし顔をあからめ、素子の心くばりをうれしく思いながら、ゆずらない小声で、

「そのお金、出来ないでよかった」