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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子の心は、いうにいえない哀憐と、人間生活へのわけのわからなさで、しめあげられた。瘠せた顎に汗とともにかわいたほこりのしみをつけたきたない遠藤絢子は、ギラギラした眼でもって、幽鬼じみた接吻のことを告げた。相川良之介さんは私に接吻したんです、と。そこにも人間性のぴくぴくする断片とその痙攣とがある。けれども、なんとあれこれは互に齟齬しており、くだらなさと痛切さとがまじりあっていて、窮極の意味はわからないのだろう。豪雨の夜の天地の暗さと、人間の生きかたの奇妙なくらさとは、ひろい座敷に虫籠のようにつられている白い蚊帳を、パッと瞬間ひらめき照らす稲妻が消えるごとに、いよいよ濃くなりまさって、伸子の心とからだとをおしくるむようだった。

二十二

素子が京都から帰って来た。

東京をはなれたのは僅かの十日たらずであるけれども、その間ひどくちがった生活の中にいてきた人の眼つきで、素子はうちのなかを見まわした。

「――どうした? 相川良之介の葬式には出かけた?」

「ええ。行った」

伸子は、不自然でないように話題をうつし、

「あなたの方、どうだった?」

ときいた。