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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「ほんとかい?」

伸子は、こっくりとした。

「どうしたのさ――動機ってやつは――」

灰色表紙の一冊の厚い本は、伸子がこれまで知らずにいたどっさりのことを教えた。自分の様々の疑問がこの日本の社会の中にもっている環境と関係したものであるという性質が、おぼろげに輪郭づけられた。けれども、それはどこまでもおぼろげにわかっただけだった。たとえば、自分が階級的に成長するということについて、具体的に何がどうなればよいのか、伸子にわからなかった。本には明瞭に示されている。小市民やインテリゲンツィアはプロレタリアの革命的陣営に参加して、はじめて自身を歴史の上に発展させることが出来るのだ、と。

ロシアの歴史のなかでのこととしてみれば伸子にもそれはよくわかった。すでに沢山の人々がそういう風に生きた。けれども、日本で、自分のこととすると、伸子には見当がつかなかった。誰でもが革命家にならなければならないとしたら、そしてそれしか自分の生きる道がないとしたら……。伸子はこわかった。アナーキストだった大杉栄と伊藤野枝が甘粕という憲兵に、どんなにして虐殺されたかを思いおこして、こわかった。