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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そういう角度からみれば、伸子たちが通り一ぺんの手続で裏がきを求めて提出してある旅券が、何とはなし積極的になれない手にとりあげられ、うちかえして眺められているという状態も推察された。

「わたしたちの立場というものを、ありのまま出して、しかしやっぱり無いよりはましという風な紹介者があると一番具合がいいんだがねえ」

「そうだわ、もし紹介者がいるんなら、そういうのでなければいけないわ」

伸子は、もとより自分の身辺にそういう外交上の響をもつような知人をもっていなかった。自然父の知友の間に物色するわけであったが、役所がきらいで民間の建築家になった佐々泰造が官僚の間にそういうときに便利な友人をもっているようにも思えない。考えまどっていて、伸子は、ふっと一つのことを思いあたった。

「ね、カラハンが来たときね、日本側の代表でいろいろやったの、藤堂駿平だった?」

「そうさ」

「――それだったら、もしかしたら何とかなるかもしれない」

十年も昔、伸子の小説がはじめて雑誌にのせられたとき、それを読んでといって、少女だった伸子に一匹の反物をおくってくれた老婦人があった。同じ錦紗でも手にとってみるとしっとり重い上質で、大まかに麻の葉の紋柄が浮き出ていた。