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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

その布地は、ひどく伸子の気に入り、さっぱりした薄紫にそめて着た。あとで、それを黒にして、いまもその羽織は愛用している。その反物をくれたのは、藤堂駿平の母で、七十になっていても、本をよむのを日課にしているという老夫人だった。伸子は、その御礼のことで多計代といいあらそったのを覚えている。多計代は折角もらったものだから、着物にして着てよく似合うところを見せに行くべきだといい、伸子は、そんなことはいやだ、とあらそった。

「お母様、もしこの反物を、ほかのどっかのおばあさんがくれたとしても、やっぱりそうおっしゃる? 藤堂駿平が男爵でなくても、そんなにおっしゃる?」

伸子は、

「そんなにむずかしいものなら、着ない」

そう云って、本当にそれが仕立てあがった冬は着なかった。

藤堂駿平と佐々泰造とは、公式なつき合いばかりでない交際があるらしいことも、伸子は思い出したのであった。

「わたし、ちょっときいて来てみる」

伸子は、郊外電車の停留場のわきにある酒屋から、佐々の事務所に電話した。

勢いこんでかえって来て、伸子はすぐに縁側にまわった。

「よかった! 何とか考えましょうって――今来るようにって……」