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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页
伸子が、老松町の足袋屋のよこを入った路地のお裁縫屋に二階がりをしていたとき、その部屋は東も西も、二間のガラス窓であった。寒いのと光線が多すぎて落ちつかないのとで、伸子は暖い色どりで釣鐘草の花模様を染め出した厚い更紗を買って来てカーテンにした。その更紗が、この家では小蒲団の上おおいになって、ニス塗りの長椅子の上に可愛い長クッションのように置かれている。伸子と浅原蕗子が、行儀よい女学生のように並んでそこにかけていた。素子は、一人はなれて横の籐椅子にかけ、小テーブルをひかえている。三人のまえに、ベルリッツの緑色表紙の教科書と帳面とがあった。外国人のためのロシア語と、題がついている。その本のはじめのところが開かれて、素子が、すこしかすれるような特徴のある声で、それは何ですか? それは鉛筆です。どんな鉛筆ですか? という、簡単な問答をロシア語で、ゆっくり読んだ。
「浅原さん、よんでごらんなさい」
先生らしく素子がそういった。蕗子は、膝の上にひろげていた本をとりあげ、ふっくらとした色白の鷹揚な口元を、馴れない発音のために緊張させながら、丁寧に、熱心に、一つ一つの音を正しく読んだ。