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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

伸子はカーネーションの花の美しさよりも、夜の鏡にうつる自分の白い影にくちばしをぶつける白い雄鳩の話により深く心を動かされた。けれども、伸子はそのこころもちを素子にも竹村にも話さなかった。二人は懐中電燈をもった竹村におくられて、くらい竹やぶを通りぬけ、宵の口にうちへ帰った。

八

翌日、伸子は自動電話で保をよび出した。そして、竹村の温室のことを話した。翌々日が日曜日だった。保は十時ごろ伸子のところへ一旦よってそれから見にゆくときまった。

「ここへよって行くって――誰が案内するんだい」

電話をかけて帰って来た伸子の顔を椅子の上から素子が見あげて、気むずかしげにいった。

「わたしゃ、そんなお供はごめんだよ」

伸子は当惑して、素子の椅子のよこに立ったままでいる足をふみ代えた。

「……あなたに行かせようと思っていたわけじゃないけれど」

「ぶこちゃんが、またわざわざついて行こうってのかい」

そうときめていたわけでもなかった。伸子は保に、あんなにきれいにカーネーションの咲いているところを見せてやりたいとだけ考えた。保をつれて行ってやることなどはひとりでに解決されると思った、というより、とりたてて考えていなかった。