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ふたりいるとき

二人いるとき

宮本 百合子

「新女苑」1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,672 字 · 18 页

青空文庫

何処か突かかるような云いかたをした。

「ところで、多喜子さんにはどう見えますか、夫婦にしか見えませんか」

「だって――ほかにどう見えたらいいんでしょう」

「第三の人物を仮定して見ても駄目ですか?」

ほかならない結婚を記念する晩に、わざわざ自分の妻に不貞な妻としての役割をさせ、自分をも不貞な良人と仮定した位置において食事を一緒にする好みとは、何ということなのであろう。女中がけろりとしていたとか何とか、罪のない眼附を良人の顔の上へ注ぎながら云っていた尚子の丸い顔を思い出すと、多喜子はそこにああいう日暮しの人々の結婚生活というもののかげに潜んでいる非常に恐ろしい、唾棄するようなものが、尚子にも気附かれずのぞき出しているのを感じた。帰りかける多喜子を送って玄関へ出て来た幸治夫婦が、計らずものの拍子でくっつき合った互の肩をそのまま並べ、上機嫌で、

「さようなら」

「じゃまた、御ゆっくりね」

と晴々した声を揃え、多喜子に向って手をふって別れを告げた彼等のもつれあった姿を目に泛べて、一方に何か全く普通の娯楽ででもあるかのように話されたそのことを考え合わせると、多喜子にはそういう人々の生きている感情の奇怪さが迫った。