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にじゅういち

二十一

坂口 安吾

「現代文学 第六巻第九号」1943(昭和18)年8月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,877 字 · 21 页

青空文庫

せまい原ッパだから、ボールが畑へとびこむと、忽ち畑の中を縦横無尽に蹴とばし、走り、ひっくりかえっているのである。

その頃は良く引越した。引越しの張本人は僕で、隣家が内職にミシンをやっていてウルサイので引越し、その次はピアノの先生が隣りにあってウルサくて引越し、僕が勝手に家を探して、明日引越すぜ、と言うと、兄貴は俗事が念頭にないから、住む家など問題にしていない。とうとう、板橋の中丸という所へ行った。池袋で省線を降り、二十分くらい歩くと田園になり、長崎村という所を通りこし、愈※(二の字点、1-2-22)完全に人家がひとつもなくなって、見はるかす武蔵野、秩父の山、お寺の隣りであった。バスなどの無い時代だから、大股に歩いて三十五分、女の足は一時間たっぷりかかる。閑静無類、僕はことごとく満足であり、朝寝の兄貴は毎朝三十五分の行軍に半分ぐらい走らなければならなかったが、之も練習と心得ているのか文句を言ったことはない。僕のウバ、もう腰のまがった老婆がついてきて炊事をしていてくれたのだが、僕のウバだから、僕のヒイキで、あんまり兄貴を大事にしない。尤も兄貴は若干婆やに弱味のシッポをつかまれており、ウチからの送金を持ちだし、時々僕のコヅカイも失敬する。