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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
「ほたって先生、それにゃわけがあるんじゃもん。月夜になるとな、蟹は馬鹿じゃせに、わがの影法師をお化けかと思ってびっくりして、やせるんじゃ。やみ夜になると、影法師がうつらんさかい、安心してみがつくんじゃど。だから、月夜は蟹が網にかかっても逃がしてやるんじゃないか。かすかすで、うまないもん。やみ夜までおくと、しこしこのみがついて、うまいんじゃ。ほんまじゃのに、せんせ。うそじゃ思うなら、ためしてみるとええ」
「じゃあ、みんなでためしましょうね」
じょうだんにそういって、その日はすんだのだが、翌々日、森岡正はほんとに月夜の蟹をもってきた。一時間目の算数がはじまるまえ、ひょうたん籠をつき出したのである。
「せんせ、蟹。月夜の蟹。やせて、うもない月夜の蟹」
それは今朝とれたばかりで、まだ生きていた。がさごそと音がしている。みんな笑った。
「ほんとにもってきたの。タンコさん」
先生も笑って、しかたなさそうに受けとった。蟹は、この期になってもまだじぶんの運命をなんとかして打開しようとでもいうように、せまい籠の中をがさごそ這いまわっていた。どういうわけか、二匹とも、大きな鋏を片方だけもぎとられたあわれな姿で、残った片方の鋏を上に向け、よらばはさむ構えで泡をふいている。