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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

田村先生と肩をならべると、

「どうしたの」

まっさきに大石先生はきいた。

「あかだっていうの」

「あか? どうして?」

「どうしてか、しらん」

「だって、片岡先生があか? どうして?」

「しらんわよ。わたしにきいたって」

ちょうど教室の前へきていた。笑って別れはしたが、二人とも心にしこりは残っていた。まだなんにも知らないらしい生徒は、雪に勢いづいたのか、いつもより元気に見えた。ここに立つと、すべての雑念を捨てねばならないのだが、教壇にたって五年間、大石先生にとってこの時間ほど、永く感じたことはなかった。一時間たって職員室にもどると、みんな、ほっとした顔をしていた。

「警察、かえったよ」

笑いながらいったのは、若い独身の師範出の男先生である。彼はつづけて、

「正直にやると馬鹿みるっちゅうことだ」

「なんのこと、それ。もっと先生らしく……」

突っつかれて大石先生はいうのをやめた。突っついたのは田村先生だった。

教頭が出てきての説明では、片岡先生のは、ただ参考人というだけのことで、いま校長がもらいさげにいったから、すぐ帰ってくるだろうといった。問題の中心は片岡先生ではなく、近くの町の小学校の稲川という教師が、受けもちの生徒に反戦思想を吹きこんだという、それだった。