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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
治安維持法というものを、彼女はよく知らない。ただ『草の実』の稲川先生が、その治安維持法という法律に違反した行動のために、牢獄につながれ、まもなく出てきてからも復職はおろか、正当なあつかいもうけていないということだけが、その法律とつないで考えられた。稲川先生の母親は、まるで気ちがいのように息子をかばい、今では彼が前非を悔いあらためていると、会う人ごとに吹聴してまわるのにいそがしいという噂を聞いた。どこまでがほんとうなのか、ただ稲川先生はひとり養鶏をしながら世間ばなれの生活をしていた。彼が世間をはなれたのではなく、世間が彼をよせつけないのだ。彼の卵は、毒でもはいっているかのようにきらわれ、ひところは買手もなかった。時代は人を三匹の猿にならえと強いるのだ。口をふさぎ、目をつむり、耳をおさえていればよいというのだ。ところが今、目の前にいる年よりは目や耳をふたした猿の手をはぎとるようなことをいう。朋輩の娘だとはいえ、はじめて会った女に、なぜ心の奥を見せるようなことをいうのだろうか。
半分は警戒心もおきて、彼女は、それとなく話題をそらせた。
「ところで小父さん、わたしの父とは、いつごろの朋輩でしたの?」