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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

「大吉、つかれないかい。手に豆ができるかもしれんな」

「豆ができたって、すぐにかたまらァ ぼく、平気だ」

「ありがたいな。でも、明日からもっと早目に出かけようか」

「どうして?」

「先生の息子が、毎日ちこくじゃあ、なにがなんでもふがわるい。そのうちお母さんも、また自転車を手にいれる算段するけども」

「へっちゃらだあ。ちゃんと理由があると、叱られんもん。船で、おくったげる」

ゆっくりと、櫓についてからだを前後に動かしながら、得意の顔で笑った。

「うまいな、櫓押すの。やっぱり海べの子じゃな。いつのまにおぼえたん」

「ひとりで、おぼえるもん。六年生なら、だれじゃって押せる」

「そうかね。お母さんもおぼえよかな」

「そんなこと、ぼくがおくってあげる」

「そうそう、森岡正という子がいてな、一年生なのに、お母さんを舟でおくってあげるっていったことがあった。昔――。もう戦死したけんど」

「ふーん。教え子?」

「そう」

ふっと涙が出た。生きていれば、もうよい若者になったろうと、五年前、桟橋で別れたきりの正を思いだし、それが幼い日のおもかげとかさなって浮かんできた。あれきりついに会うことのなかった正。