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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

「あきれた人もあるもんじゃな。ひとの災難を聞いて、けらけら笑う先生があろうか。ひとつ、ねじこんできた」

やがてそれは、また尾ひれがついて村中に伝わってゆくにちがいない。じっと突っ立って、二分間ほど考えこんでいた先生は、心配そうにとりまいている生徒たちに気がつくと、泣きそうな顔で笑って、しかし声だけは快活に、

「さ、もうやめましょう。小石先生しっぱいの巻だ。浜で、歌でもうたおうか」

くるっときびすをかえして先に立った。その口もとは笑っているが、ぽろんと涙をこぼしたのを、子どもたちが見のがすわけはない。

「先生が、泣きよる」

「よろずやのばあやんが、泣かしたんど」

そんなささやきがきこえて、あとはひっそりと、ぞうりの足音だけになった。ふりかえって、泣いてなんかいないよう、と笑ってみせようかと思ったとたん、また涙がこぼれそうになったので、だまった。このさい笑うのはよくないとも思った。さっき笑ったのも、よろずやのおかみさんがいうように、人の災難を笑ったというよりも、ほんとうのところは、マスノの身ぶりがおかしく、それにつづいて、押入れの連想は、一学期のある日の、仁太を思いだして笑わせたのであった。