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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
お気のどくといいそうになってあわててやめた。後藤先生こそ、どうしてかようだろうとあんじられたのだ。もうすぐ四十で、しかも晩婚の後藤先生には乳呑み子があった。じぶんよりは少し岬へ近い村の人とはいえ、一里半(六キロ)はあるであろう岬へ、寒さにむかってどうしてかようだろうかと思うと、その気のどくさと、じぶんの心残りとがごっちゃになって、急に眉をあげた。
「では、校長先生、こうしていただけませんでしょうか。わたしの足がすっかりなおりましたら、いつでも代りますから。それまで後藤先生にお願いすることにして……」
いかにもよい思いつきだと思ったのだが、校長先生の返事は思いがけなかった。
「義理がたいこというなあ、久子さん。あんたがそないに気をつかわんでも、ちょうどよかったんだから。後藤先生は、すすんで岬を希望したんだから」
「あら、どうしてですの?」
「いろいろ、あってね。老朽で来年はやめてもらう番になっていたところを、岬へいけば、三年ぐらいのびるからね。そういったら、よろこんで、承知しましたよ」
「まあ、老朽!」
三十八や九で老朽とは? まだ乳呑み子をかかえている女が老朽とは。