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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
大石先生がきゃっきゃっと笑うと、船頭さんもいい気持らしく、
「ぎりと ふんどしゃ かかねば なるまい そういう もんじゃよ ゆんとん さんかよ」
もう大石先生は腹をかかえて、思うぞんぶん笑った。海の上ではだれも気にするものはなく、その笑い声まで櫓の音でくぎられながら、船はしだいに沖にすすみ、やがて対岸の村へと近づいてゆく。まだ朝げの靄の消えきらぬ岬のはなは、もうとっくに今日の出発がはじまったらしく、小さな物音がしきりにひびいてきた。今ごろ、あの子どもたちはどうしているだろうか。自転車でかよっていたとき、よろずやの前にさしかかると、あわてて走りだしてきていた松江、よく、波止場の上まで出てきて待ちうけていたソンキ、三日に一度はちこくする仁太、おしゃまのマスノ、えんりょやの早苗、一学期に二度も教室で小便をもらした吉次、と、ひとりひとりの上に思いをめぐらしながら、よくぞあのチビどもが、思いきって一本松までこられたものだと思うと、あの日の、ほこりにまみれた足もとなど、思いだされて、いとしさに、からだがふるえるほどだった。
あのときは、わたしのほうがおどろかされたから、今日はひとつ、みんなをびっくりさせてやる……。