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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

「あら、どうも失礼しました。思いちがいしましたの」

これが以前だったら、女先生は見舞いを催促したといわれるところだったろう。行きすぎると子どもたちが笑いだし、その中の男の子が、

「先生、清六さん家は、人にものやったためしがないのに。もらうだけじゃ。山へ仕事に行とってしょうべんしとうなったら、どんな遠うても、わが家の畑までしにいく人じゃもん」

わあとみんなが笑った。その話はまえにもいちど聞いたことがあった。四年生にいるその息子が、組でひとりだけ、どうしても音楽帳をもってこなかった、そのときである。いつも忘れてくるのかと思ってただすと、泣きそうになってうつむいた。するとならんでいた生徒が、かわって答えた。

「歌をなろうても銭もうけのたしにはならんいうて、買うてくれんのじゃ」

つぎの唱歌のとき、清一というその子に音楽帳をやると、うれしそうに受けとったことを思いだした。彼は、教科書まで全部、他人の使い古しをもらっていた。しかも村で二番目のしんしょ持ちだというのだ。そこに清一のいないことで、ほっとしている先生へ、

「せんせ足、まだ痛いん?」

まっさきにきいたのは仁太である。