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きょうのしき

京の四季

和辻 哲郎

「新潮」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,914 字 · 16 页

青空文庫

松のみどりがだんだん目につくようになってくるのも、そのころからであったと思う。新芽の先についた花から黄色の花粉のこぼれるのが見えたと思ううちに、やがて新芽の新しい針葉がのびて来て、古い葉と層々相重なった、いかにも松の新緑らしい形になる。なるほど土佐絵の画家はこれを捕えたのであったかと気づかざるを得ないような形である。東京で松の新緑を見ても、必ずしもそういう印象を受けるとは限らないのであるが、東山などでは、最も数の多い松の樹が、そろってそういう形になるのである。落葉樹の緑色も、常磐樹の緑色も、もうすっかり落ちついて、新緑らしい鮮やかさのなくなったころであるから、この松の新緑は、非常に鮮やかな美しい印象を与える。

松の新緑が出そろってしまうのは、もう土用も遠くない七月の初めであったと思う。やがて一、二週間もすると、この新緑も落ちついた色に変わってしまう。柳の芽が出始めて以来、三、四個月の間絶えず次から次へと動いていた東山の緑色が、ここで一時静止する。それはちょうど祇園祭りのころで、昔は京都の市民が祭りの一週間とその前後とで半月以上にわたって経済的活動を停止した時期である。