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きょうのしき

京の四季

和辻 哲郎

「新潮」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,914 字 · 16 页

青空文庫

実に豊かな、あふれるような感じであった。ことにそのころがちょうど陰暦の十四、五日にでも当たっており、幸い晴れた晩があると、月光の下に楓の新緑の輝く光景を見ることができた。その光と色との微妙な交錯は、全く類のないものであった。

楓だけでもそれぐらいであるが、東山の落葉樹から見れば楓はほんの一部分である。新緑のころ、東山の常緑樹の間に点綴されていかにも孟春らしい感じを醸し出す落葉樹は、葉の大きいもの、中ぐらいのもの、小さいものといろいろあったが、それらは皆同じように、新芽の色から若葉の色までの変遷と展開を五月の上句までに終えるのである。そうしてそのあとに常緑樹の新芽が目立ち始める。椎とか樫とかの新芽である。前に言ったように椎の新芽の黄金色が、むくむくと盛り上がったような形で東山の山腹のあちこちに目立ってくるのは、ちょうどこのころである。やがてその新芽がだんだん延びて、常磐樹らしく落ちついた、光沢のある新緑の葉を展開し終えるころには、落葉樹の若葉は深い緑色に落ちついて、もう色の動きを見せなくなる。そうなるともうすぐに五月雨の季節である。栗の花や椎の花が黄金色に輝いて人目をひくのはそのころである。