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じんみんせんせんへのいっぽ

人民戦線への一歩

宮本 百合子

「サンデー毎日」1946(昭和21)年2月3日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,003 字 · 10 页

青空文庫

うちを出て、もよりの省線の駅までゆく途中の焼跡にも、この頃はいろいろの露店が出はじめた。葭簀ばりの屋台も、いくつかある。

きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど八百やが露店を出していた。人参、葱、大根が並んでいる。鉢巻した売りてが、大きい一本の大根をぶら下げて、あっちからこっちへと積みかえながら、

「さア、この大根だと、一本十六円」

そう呼んでいる。何人かの男女が、八百やの前に佇んでいた。が、誰も彼も黙然として野菜を見下し、その声をきいているのであった。

少し行くと、魚やが出ていた。この辺に、こんなどっさり品数を並べた魚やは、珍しい。好奇心に誘われて、人垣の間から首をのぞけてみたらば、鮪百匁五十五円と書いた札が先ず目についた。そこでも、たかっている人のどっさりの中で、実際そのとき買っているという女も男も見当らなかった。やっぱり、口かず少く、百匁五十五円のマグロ、一山十五円のカキの皿を眺めおろしているのであった。

そこ、ここにこうして市場まがいのものが出はじめた。そして、街頭は、人出が繁いのであるが、さて、今日地道な生活の人々はもう値段かまわぬ買物をして暮す気分ではなくなった。