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じんせいみっつのたのしみ

人生三つの愉しみ

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第四号」1951(昭和26)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,953 字 · 16 页

青空文庫

ローマ風呂は宮殿の如き大建築で、善美をつくし、当時ローマの彫刻は大浴室を飾るためのものであったというから、それが男女の裸体の彫刻であるのは当然だ。浴場は社交場、集会場、討論場であり、やがて亡国の快楽場ともなった。まさしくそこは酒池肉林で、彼らは湯あみしつつ飲み食いたわむれ、飽食してゲイゲイ吐いては蒸気室へとびこんで汗を流して再び飲みたわむれて尽くるところを知らなかったという。その源はネロの酒池肉林に発している。彼の浴室はローマ市民の呪詛の的であった。しかしながらネロの呪われた浴室も、後のローマ風呂の発達にくらべれば、さほどの物ではなかったのである。カルカラの大浴場をはじめ、富者は各自善美をつくした浴室をもち、公共の浴場に於ても男女混浴の酒池肉林は当然のこととなった。ネロの奢侈はローマ市民のものとなり、ローマ帝国亡びるや、キリスト教徒は浴場という浴場を破壊全滅させた。キリスト教徒は中世紀に至るまで沐浴を罪悪とみて、僧侶は一生沐浴しない者もあり、許されて年に二回ぐらい沐浴できる者もあったという程の徹底的な沐浴制裁を行ったのであるが、これはローマ風呂の快楽が忌まれたためで、他に理由はなかったということである。