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じんせいあんない

人生案内

坂口 安吾

「キング 第三〇巻第一一号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,201 字 · 21 页

青空文庫

彼はつくづく世の定めを呪いまた嘆いたのである。人生の実際の悩みというものは、どうも筆にならない性質のものらしい。人生案内へ投書するために新聞が読みたいのであるが貧乏で買うことができない。新聞販売店のオヤジは自分が日に十五時間働くと云っても雇ってくれない。この悩みを解決して下さいと書けばこれは偽らぬ煩悶であるが、こんなくだらない悩みは書きたくない。しかし、くだらない悩みとはまことにもってのほかで、自分にとってはカケガエのない切ない悩みであるが、投書家の見識をもってすれば確かにくだらぬ悩みであるから仕方がない。紅血や熱涙したたるような大物でなければならないものだ。

「なア、お竹。物は相談だが、お前、料理店へ奉公しねえかなア。ハリ紙を見たから聞いてみたんだが、これは一流の料理店だ。何百人も宴会できる大広間からコヂンマリした四畳半まで何十と部屋のある大店だ。通いでも住み込みでも三度の食事は店でたべて衣裳ももらって給料は五千円。ほかにチップがあるから一万円ぐらいになるそうだ。とにかく人間は貧乏じゃアいけねえ。金をもうける工夫をして、そのまた上にも工夫をして着々ともうけなくちゃアいけねえな。