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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

そこで彼は「われは罪人の首なり」と叫ばざるを得ないのである。私達は悪と誤謬との苦しみに血を流すとき、懺悔と祈りとのために大地に涙するとき、真に自己自身を知ることができる。怠惰と我執と傲慢とほど、私達を自己の本質の理解から遠ざけるものはない。

自己を知ることはやがて他人を知ることである。私達が私達の魂がみずから達した高さに応じて、私達の周囲に次第に多くの個性を発見してゆく。自己に対して盲目な人の見る世界はただ一様の灰色である。自己の魂をまたたきせざる眼をもって凝視し得た人の前には、一切のものが光と色との美しい交錯において拡げられる。恰もすぐれた画家がアムステルダムのユダヤ街にもつねに絵画的な美と気高い威厳とを見出し、その住民がギリシア人でないことを憂えなかったように、自己の個性の理解に透徹し得た人は最も平凡な人間の間においてさえそれぞれの個性を発見することができるのである。かようにして私はここでも個性が与えられたものではなくて獲得されねばならぬものであることを知るのである。私はただ愛することによって他の個性を理解する。分ち選ぶ理智を捨てて抱きかかえる情意によってそれを知る。