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じんせいろんノート
人生論ノート
三木 清
下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页
しかしそれだけ深く神の怒というものの神秘が感じられるのである。怒にはただ下降の道があるだけである。そしてそれだけ怒の根源の深さを思わねばならないのである。
愛は統一であり、融合であり、連続である。怒は分離であり、独立であり、非連続である。神の怒を考えることなしに神の愛と人間的な愛との区別を考え得るであろうか。ユダヤの予言者なしにキリストは考え得るであろうか。旧約なしに新約は考え得るであろうか。
神でさえ自己が独立の人格であることを怒によって示さねばならなかった。
特に人間的といわれ得る怒は名誉心からの怒である。名誉心は個人意識と不可分である。怒において人間は無意識的にせよ自己が個人であること、独立の人格であることを示そうとするのである。そこに怒の倫理的意味が隠されている。
今日、怒というものが曖昧になったのは、この社会において名誉心と虚栄心との区別が曖昧になったという事情に相応している。それはまたこの社会において無性格な人間が多くなったという事実を反映している。怒る人間は少くとも性格的である。
ひとは軽蔑されたと感じたとき最もよく怒る。だから自信のある者はあまり怒らない。