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じんせいろんノート

人生論ノート

三木 清

下記以外「文學界」文藝春秋社、1938(昭和13)年6月~1941(昭和16)年10月<br>個性について「哲學研究 第五十二號 第五卷 第七册」京都哲學會、寶文館、1920(大正9)年7月1日<br>後記「人生論ノート」創元社、1941(昭和16)年8月11日<br>旅について 不詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,023 字 · 143 页

青空文庫

何故であるか。生命は抽象的な法則でなく、単なる関係でも、関係の和でも積でもなく、生命は形であり、しかるにかような世界においては形というものは考えられないからである。形成は何処か他のところから、即ち虚無から考えられねばならぬ。形成はつねに虚無からの形成である。形の成立も、形と形との関係も、形から形への変化もただ虚無を根柢として理解することができる。そこに形というものの本質的な特徴がある。

古代は実体概念によって思考し、近代は関係概念或いは機能概念(函数概念)によって思考した。新しい思考は形の思考でなければならぬ。形は単なる実体でなく、単なる関係乃至機能でもない。形はいわば両者の綜合である。関係概念と実体概念とが一つであり、実体概念と機能概念とが一つであるところに形が考えられる。

以前の人間は限定された世界のうちに生活していた。その住む地域は端から端まで見通しのできるものであった。その用いる道具は何処の何某が作ったものであり、その技倆はどれほどのものであるかが分っていた。また彼が得る報道や知識にしても、何処の何某から出たものであり、その人がどれほど信用のできる男であるかが知られていた。