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にんげんとゆわかし
人間と湯沸かし
小川 未明
「婦人倶楽部」1927(昭和2)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,082 字 · 7 页
ちょうどそのとき、一人のみすぼらしいおじいさんがかごをかついで、
「くずーい、くずーい。」
といって、門からはいってきました。そして、いま女中さんが、アルミニウムの湯沸かしをごみ箱へ捨てようとしているのを見つけて、
「ねえさん、それをお捨てになるのですか? もったいない。もしお捨てになさるなら、わしにください。穴があいていましたら直して、家で使います。磨けばりっぱになりますから……。」といいました。
お竹は、にっこりと笑って、くず屋のおじいさんの顔を見ました。すると、おじいさんは、
「私は、けっして、売りはいたしません。自分の家で大事にして使いたいのです。そしてこの湯沸かしがある間、ねえさんからおもらいしたことを思い出します。」
と、つづけていいました。
お竹は、快く、それをおじいさんにやりました。おじいさんは、たいそう喜んで、湯沸かしをもらって、しわの寄った指でそれをなでながら出てゆきました。彼女は後ろ姿を見送りながら、どことなく、正直そうなおじいさんだと思いました。もしおじいさんが、あの湯沸かしを直して使ってくれたら、湯沸かしは幸福だと思いました。また、まんいち、あれを、おじいさんが他人に売ったにしても、湯沸かしは、ごみための中に転がっているよりか、どれほどしあわせであるかしれないと考えました。