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ものをこわすのがしょうばいじけん

什器破壊業事件

海野 十三

「大洋」1939(昭和14)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,352 字 · 31 页

青空文庫

「なあに、謝まらんでもいい、壊されるのには懲りていながら、あんたに居てもらうというは、そこにソノ……」といっているとき、廊下の向うから、呼ぶ声がしたので、光枝は毒蛇の顎をのがれる心地して、旦那様の前を退った。

それから暫くして、光枝は、菊の花を一杯生けこんだ大花瓶をもって現れた。そしてそれを本棚の上にそっと置いた。そして電気をつけた。

旦那様は、安楽椅子に寄懸って、もう居睡をしてござった。だがそれは狸寝入らしく、ときどき瞼がぴくぴくと慄えて、薄眼があく。もちろん旦那様の視線は、光枝の着物のうえから身体をつきさしている。

「旦那様、御入浴をどうぞ」

「いや、きょうはわしは、はいらんぞ」

眠っている筈の旦那様が、はっきり返事をした。あの入浴好きの旦那様が、いつになくはいらないとおっしゃる。

光枝は、ははあと思った。

(ああそうだったのか。帆村先生が、もう一ヶ所、位置の変ったものがある筈だとおっしゃったのは、この意味だったか)

――というのは、外でもない。たしかに、或る一つの重要物件が、あの陽明門の額から取出されたのだ。そしてこの居間の、他のいずれかの場所に移されたのだ。