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あだうたれげさく

仇討たれ戯作

林 不忘

「オール読物」1934(昭和9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 21 页

青空文庫

一

六樹園石川雅望は、このごろいつも不愉快な顔をして、四谷内藤新宿の家に引き籠って額に深い竪皺を刻んでいた。

彼はどっちを向いても嫌なことばかりだと思った。陰惨な敵討の読物が流行するのが六樹園は慨嘆に耐えなかったのである。

客あれば彼はよくこの風潮を論じて真剣に文学の堕落を憂えたものであった。

一度三馬が下町の真ん中からぶらりとこの山の手の六樹園大人を訪れたことがあった。文化三年の火事に四日市の古本店を焼け出されて、本石町新道に移ってからで、式亭三馬はその戯作道の頂天にある時代だった。酒飲みで遊び好きの三馬は、またよく人と争い、人を罵って、当時の有名な京伝、馬琴などの文壇人とも交際がなかった。ことに曲亭とは犬猿の仲であった。馬琴の眼には三馬などは市井の俗物としか映らなかったし、三馬は馬琴をその傲岸憎むべしとなしていた。この驕々たる三馬が一日思い立って日本橋から遠い四谷の端れまで駕輿をやったのは、狂歌師宿屋飯盛としての雅望と、否、それよりも六樹園の本来の面目である国文学の研究に少からず傾到するところがあったからだ。

婢が書斎の六樹園の許に刺を通じて、