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あだうたれげさく

仇討たれ戯作

林 不忘

「オール読物」1934(昭和9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 21 页

青空文庫

」

「いや、山東氏は山東氏として、足下のお気持を聞きたいのです。」

「人間は何でも売る物が多ければ多いほど生活がよくなりやすからな。延寿丹も江戸の水も、私の戯作も、みなこれ旦暮の資のためでげす。」

三馬はけろりとして答えた。六樹園は喫驚して客の顔を見つめた。

「なにごとも生活のためと仰せらるる。」

「さよう。大人の御勉強、御著述も、早く言えば生活のためでげしょう。」

「いや、拙はさようなことは考えませぬ。拙は文学道のためにのみ筆をとります。」

六樹園は昂然として言った。今度は三馬がびっくりした。

「文学道――さようなものはどこにあるか一度めぐり会いてえものでげす。」

と三馬はにたにたして語をつないだ。

「なるほど、六樹園大人は小伝馬町の名だたる旅亭糠屋のおん曹子、生涯衣食に窮せぬ財を擁してこそ、はじめて文学道の何のときいた風な口がきけやす。文を売って右から左に一家の口を糊する輩は、正直に売文を名乗ったほうがまだ茶気があるだけでも助かりやす。」

ずいぶんものの考え方が違うものだと六樹園は思った。度し難い気がして黙ってしまった。同じ文字のことに携ってながらこんなに立場が違うのはどういうわけであろうと倉皇のあいだに考えてみた。