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あだうたれげさく
仇討たれ戯作
林 不忘
「オール読物」1934(昭和9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 21 页
洒落を生命としていた巷間の戯作は、江戸風のいわゆる通人生活の描写から、悪ふざけが嵩じて遊里の評判、時の政道のそれとない批判まで織りこむようになり、寛政度のお叱りにあって一転し、善玉悪玉の教訓物となったが、やがてそれもあかれて今この実説風の敵討物万能となったのである。
六樹園ははじめこの流行に苦笑していたが、あまり度を外した血腥い趣向立てに、婦女童子に害あり、人心を誤るものという意見で非常に憤慨していた。
「忠臣孝子に思わぬ辛苦を舐めさせ、読む者をして手に汗を握らしむるのはいいが、君子は庖丁を遠ざくと言います。御存じでしょうが、ここに面白いことが書いてある。」
そう言って六樹園は立って行って本箱をしばらく探していたが、やがて一冊の草紙を持って座に帰ったのを見ると、それは文化二年に出た、竹塚東子の「父母怨敵現腹鼓」であった。
六樹園はその序を開いて三馬の前に読み上げた。
「今や報讐の稗史世に行われて童児これを愛す。実にや忠をすすめ孝にもとづくること、索もて曳くがごとし。しかしその冊中面白からんことを専にして死亡の体を多くす。頗る善を勧め悪を懲すの一助なるべけれど、君子は庖丁を遠ざくるの語あり。