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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

吉里はしばらく考えていた。そして、手酌で二三杯飲んで、またしばらく考えていた。

「小万さん、平田さんの音信は、西宮さんへもないんだろうかね」と、吉里の声は存外平気らしく聞えた。

「ああ、あれッきり手紙一本来ないそうだよ。西宮さんが出した手紙の返事も来ないそうだよ。だがね、人の行末というものは、実に予知らないものだねえ」と、小万がじッと吉里を見つめた眼には、少しは冷笑を含んでいるようであッた。

「まアそんなもんさねえ」と、吉里は軽く受け、「小万さん、私しゃお前さんに頼みたいことがあるんだよ」

「頼みたいことッて」

吉里は懐中から手紙を十四五本包んだ紙包みを取り出し、それを小万の前に置いた。

「この手紙なんだがね。平田さんから私んとこへ来た手紙の中で、反故にしちゃ、あんまり義理が悪いと思うのだけ、昨夜調べて別にしておいたんだよ。もうしまっておいたって仕様がないし、残しときゃ手拭紙にでもするんだが、それもあんまり義理が悪いようだし、お前さんに預けておくから、西宮さんに頼んで、ついでの時平田さんへ届けてもらっておくんなさいよ。ねえ小万さん、お頼み申しますよ」

小万は顔色を変え、「吉里さん、お前さん本気でお言いなのかえ」