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こんにちのぶんがくのちょうかんず
今日の文学の鳥瞰図
宮本 百合子
「唯物論研究」1937(昭和12)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,298 字 · 24 页
徳川時代の文学作品のあるものは、一種の町人文学として当時の官学流の硬い文学、経綸文学に対立し、庶民の日暮しの胸算用、常識を鋭く見て、例えば西鶴等はその方面の卓抜なチャンピオンであった。しかし、日本文学全体の歴史を通じて庶民の文学であるというのは明らかな無理である。王朝時代の記録は、文学の優れた作家の生涯についてさえ、その人々が高貴な御方でなければ詳述していない。紫式部の伝記を満足するように書けない原因は、この当時の記録のないことである。林房雄氏等は日本のロマンチストとして「抽象的な情熱」に従って王朝文学を読むと言っているのであるが、王朝の文学に当時の民衆は何と描かれているであろうか。「もののあわれ」を知るみやびやかな上流人に対して「むくつけき賤山がつ」として見られており、耳に喧しく「さえずる」ものらとして地に這うものとしての姿が写されているに過ぎない。
文学は、最も原始的な時代に口から口へと語られた。聞き手として当時にあっても一定の大衆は予想されたのであったし、文学が印刷されるようになってからは、読者としての大衆は或る場合には民族と国境とを越えて考え得る状態になった。