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なかなかしなぬあいつ
仲々死なぬ彼奴
海野 十三
「探偵」駿南社、1931(昭和6)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,216 字 · 18 页
退場しなければならなかった。
喜助は、重い足をひきずるようにして、叔父の家の二階へ、帰って行った。
三
二階の薄汚い彼の居間に入ると、彼は、耐えとおして来た悲しさと口惜しさとを一時に爆発させて、側らの硝子戸がビリビリ鳴り出したように思われるほど、大声を挙げて、泣いて泣いて泣きまくった。この室こそ彼にとって独占の天下であった。そこには誰も入ってくるものがなかった。叔父や叔母たちには彼の泣き声が耳に入らぬではなかったが、明日にさし迫った大熊老人の葬儀に供えるための、大青竹の花筒を急造したり、山のように到着した榊や花を店前に下ろしたり、それに続いて、その大花筒に花をさしわけたりする仕事のために、一分とその場を離れることができなかった。従って二階へ上って喜助を慰問してやることは、当分のうち全く不可能であるといってよい。喜助は、いよいよ落着いて泣きつづけた。
だが、その快よい悲歎の泪を、ときどきチクリと止める何物かが夾雑していることに、喜助は気付かないわけにゆかなかった。それは何といいあらわすべきであろうか。早く言うなれば大熊老人の死に纏る莫然たる疑惑であった。