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イタリアのことう

伊太利亜の古陶

宮本 百合子

「中央公論」1924(大正13)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,477 字 · 31 页

青空文庫

「何処です?」

「伊太利――」

「――一体真物なんですか?」

みや子の詰問するような語勢に、日下部は微な不快を感じた。

「兎に角古いことは相当古い。然しまあ珍しい一つの標本と思っていれば間違いない」

「あなたそんなにお賞めになったんですか、贋物と知っているくせに? 気の弱い方ね。いいだろうと云われると悪いとおっしゃれないのだもの」

彼女は皮肉な調子で呟いた。

「この頃は華族様でも抜目はおありにならないこと。――沼津の代りですよ。お皿一枚!」

日下部太郎は、苦々しい顔をし、黙って箱を持って立ち上った。みや子は両袖を胸にひきかさねながら応接間まで跟いて来た。

彼は鍵を出して飾棚の硝子戸をあけた。そして、一番上の段の赤絵の盃台を卸し、そこに来たばかりのマジョリカを置いた。彼は部屋の中央まで後退りして見た。光線が不充分だ。彼は赤絵を元に戻し、今度は一番下の棚に場所を拵えた。光線は程よく皿の側面から注ぐが、別な故障が起った。下に張ってある殷紅色の天鵝絨と皿の艶とが衝突する。――

日下部太郎は、長閑な日曜の午後を、一枚の皿のために飽きずに彼方此方した。遂に、彼は、この皿が棚には到底納らないのを発見した。