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イタリアのことう
伊太利亜の古陶
宮本 百合子
「中央公論」1924(大正13)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,477 字 · 31 页
彼の神経の故か、左右八つの棚に、それぞれの姿で並んでいる支那や日本の純粋な古陶等は、見えない空気の顫動のようなもので、頻りに新に加ろうとする怪しいマジョリカを拒むようにさえ感じられた。
日下部太郎は生のあるものに云いきかせるように贋のジョルジョに囁いた。
「仕様がない。――ではお前は此方で堪能しろ」
皿は最後に、晴々した日光が正面からさす炉棚の上に飾られた。
たっぷりした午後の光をまともに受け、その紅玉釉薬の皿は、高畠家の※(「木+解」、第3水準1-86-22)の腰羽目を後にして見たのと、まるで別様の趣で日下部の心に迫って来た。重々しさ、威厳こそ幾分減った。が、紅い釉薬の透明さは愈々増し、下の深い愈の心臓形が、何ともいえず見事な鮮やかさで浮上った。描かれた僧の胸像も立体的に、今にも微細な粉末になって舞い立ちそうな暗紅色の燦めきの一重奥に、神秘な中世期の代表のように謹直さと憂鬱とを以て横向いている。
日下部太郎の目に、皿はこれ迄になく魅力と抑揚に富んだ一幅の陶器の額のように見えた。彼は、傍で何か云う妻に空返事をした。眺めれば眺めるほど情が移り、彼は、これ程美しいものの裏に、あんなまやかし文字があったという自分の記憶を疑わずにいられない心持になって来たのであった。