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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页
彼女たちは代々そういい伝え、それを信じて来た。そのほかの人間はひっくるめて薪ざっぽか藁屑にすぎない、決してほかの縁談には耳をかさず、いつまでも待っていた。そうして、三十五六から四十くらいになると、必ず娘を一人産んで、その娘に向って繰り返し若武者の夢を云い含めるのであった。ところで、必ず娘を一人だけ産むという点であるが、彼女たちはもちろん結婚をしないし、評判になるような恋人も持たない。伝承の若武者以外にそんな者を持てば、代々のお登女さまの霊が祟るというのである。ではどうして娘が産れるか、神聖受胎の類いであるかというに、そうでない事実がわかった。杢助がその当事者になって、初めてわかったのである。それは彼が十八の年のことであるが、父の百助が黒門へ呼ばれてゆき、帰って来て話すところによると、彼に黒門へあがって、お登女さまの御用をつとめて来い、というのであった。
――夜なかにゆくだ。と父親は声をひそめて云った。誰にも知れねえように、夜なかにいって夜の明けねえうちに帰って来るだ、死んでも人に知られちゃなんねえだ。
――御用だって、どんな仕事するだえ。
――黒門へあがればわかるだよ。