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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

もちろん美男というほどではないが、うっとりとねむそうにしている眼や、高い鼻や、いつも誰かをさげすんでいるような唇つきなどに、娘たちの心を唆る特殊な魅力があったらしい。彼女たちは絶えず彼にながしめをくれ、つきまとい、思わせぶりや厭味などで彼をうるさがらせた。それだけならよかったが、やがて黒門のお登女さまの問題が起こった。

黒門というのは村一番の旧家で、村の土地はもちろん、付近に多くの山林を持っていた、また相当な金持でもあった。屋敷は村の西側のもっとも高い処にあり、五棟の土蔵はべつとして、ぜんたいの建物は鎌倉時代の建築といわれる壮大なものであった。黒木の門には小庇の付いた窓があり、昔はここで訴願などを受付けたという。また門の脇には高札場があって、現在でも領主加賀様の制札が掲げられる。土地の者は、(その門のため)単に黒門と呼んでいるが、正式には「庄屋」の役を勤めているのである。お登女さまというのはその当主であった。ふしぎなことには、黒門ではもう七代も女主人が続いていた。代々お登女さまという名であって、彼女たちは代々ひとつの夢を受け伝えて来た。

――緋縅の大鎧を衣て、竜頭と金鍬形の付いた兜をかぶって、連銭葦毛の馬に乗った美しい若武者が迎えに来る、光り耀やくような若い大将が、それがお登女の花婿である。