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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页
「おうよ、杢助さまが知ってござるだよ」
弥市は拳をふり廻し、はだしの足ではねながら喚きたてた。娘たちは声をあげて笑った。その小さな、がに股の、しなびたような弥市が、はねあがりはねあがり喚くさまは、老いぼれ猿が怒ってでもいるようで、娘たちには忍耐のしようのないほど可笑しいらしかった。
「三つ沢に湯小屋が出来ただって」
杢助は寝返ってきせるを取った。
「それじゃあ、まだ、あそこには涌き湯が出ているだな」
彼はまただるそうに煙草を詰めた。彼には眼の前の騒ぎが見えもせず、聞えもしないようであった。娘たちは土間の方へゆきながら、艶のある声でこっちへ呼びかけた。
「杢助さまよ、岩魚を持って来ただよ」
「おら米を五升持って来ただわさ」
「おんだらが今朝早く曲り瀬で捕っただ、七寸もある肥えた岩魚だに、みんなで五尾あるだによ」
「おらが自分で搗いた米だでな、ほんによ、おらが自分で搗いただから」
洗濯物だという娘もあり、山菜を採って来た娘もあった。彼女たちは互いに、自分の貢物で杢助の注意をひこうとしながら、互いに押したり叩いたりした。華やいだ声できいきい叫びながら土間の中へ入っていった。