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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页
こう云って、としよりはひとはねはねてみせた。
「おらまだ勝山城下へ一日で往って来られるだ、おぬしゃなに屋の旦那だね」
老人は黙っていた。それから歩きだした。弥市と呼ばれたとしよりは、不決断にそのあとからついていった。歩きながら老人がきいた。
「善太のところのお花は、達者かね」
「花っ子は死んだだよ、旦那は花っ子を知ってるだね」
弥市はまたひょいとはねた。
「死んでっから七年くれえ経つか、孫の亀がじきに嫁を貰うだよ」
「おそで、後家の娘はえ、なんとかいったっけ、すが眼でまるっこい躯つきのよ、うう」
「あやっ子のことかえ」
「そうよほんに、あやっていう名だっけ」
「あれも死んだだ、あれはよっぽどめえのこんだ、もう二十年も経つべえかね、忘れるくれえ昔のこんだ、旦那は娘っ子をいろいろ知ってるだね」
「すると」
老人は構わずに云った。
「すると、その、黒門のお登女さまも、亡くなっただか」
「どのお登女さまのことをいうだ」
「どのといって、お登女さまは一人っきりじゃねえかえ」
「お登女さまは今でもござるだよ、けれどもいまのお登女さまのおふくろさまも名めえは同じだし、そのめえのおふくろさまもお登女さまといっただ、黒門じゃ代々お登女さまっていうだよ」