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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

誰か一人は必ず杢助に附きっきりで、飯の給仕をし茶を淹れ、そして肩腰を揉んだり叩いたりした。

「すべて道の修業のためでございます」

かれらは自分からそう云うのであった。けれども五人のなかで、三之木だけは違っていた。彼は飯篠老人が予言していたような修業者の一人で、ぜひ先生の太刀筋を拝見したいといい、そこで例の木剣と睨みあうことになった。榧の枝から吊り下げた木剣に向って、彼も自分の木剣を持って、挑戦するのである。

――おそらく打込むことはできなかろう。

飯篠老人はこう云ったが、そのとおりであって、三之木三郎は五人のなかでは誰より逞しく、髭さえも生やしていたのに、どうしても打込むことができない。ぶらりと宙に下っている木剣を睨んで、眼を剥きだし歯をくいしばって、それこそ膏汗をながして、一日じゅういきみ返っていた。ときには夜半ごろにとつぜんはね起き、「おう、そうだ」などと云って、木剣を掴んでとびだしたりするが、やっぱりうまくはいかないらしい。そういうわけで、三之木だけは殆んどほかの用事をしなかった。

他の四人は好い若者であった。みんな剣術の極意のことで頭がいっぱいらしい、昼夜十刻、眠っていてさえも頭から放れないようで、みんないつも緊張し思い詰めたような眼つきをしていた。