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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

四之木は痩せた小男で、言葉に九州方面の訛りがあり、なにか落し物でも捜すように、大きな眼で絶えず周囲をきょときょと眺めまわしていた。娘たちが来ると彼だけは嬉しそうで、順番でなくても自分で炊事をひきうけ、珍しい御馳走を拵えたりして、頻りに彼女たちをとりもつのであった。

杢助には満足な生活が続いた。杢助には不平はなかった。彼は決して不平家ではなかったが、その生活にはなかんずく不平や不満はなかった。

猛暑の季節になったが、草庵はいつも涼しかった。深い杉林に囲まれているので、空気は常にひんやりしているし、谷から吹きあげる風はいいようもなく爽やかであった。霧の巻く朝夕は杉の香がつよく匂い、郭公や、時鳥や、筒鳥や、そのほかなにかの鳥が夜昼となく鳴いた。来る日も来る日も平穏であった。五之木五郎が指を立てに来るのも、二之木がふくれるのも、気にならなくなった。四之木四郎は肩を叩くのが誰よりもうまかったし、一之木太郎は足腰を揉むのが巧みであった。三之木だけは榧の樹の下でいきんでいるばかりで、なんの役にも立たなかったが、彼がそうしているために、草庵がいかにも修業道場らしくみえたことは慥かであった。