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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

――おらこれ以上なにも要らねえ。杢助はこう思った。この暮しが百年続くとしても、おらちっとも文句を云うこたあねえ。

まさしく杢助にとってはそうだったろう。

が、八月になると、その平穏な生活がゆらぎだした。

第一の出来事は娘たちから起こった。彼女たちは相変らず五人組で来て一日いっぱい勝手に騒いでいった。当時は一般の風俗もおうよう寛闊であったが、彼女たちは山間自然の境地に育って、その性情は野趣に富み奔放不拘束な点が多かった。彼女たちは絶え間なしに喰べ、好んで情事を話題にした。情事のほかにはなにも興味はないようであった、しかも話題は直截であり、明らさまで、隠すところがなかった。彼女たちは男女の性別について、観察的にも解剖的にも豊富な知識をもっていた。両性の生理やその機能についても、驚くほど詳細に知っていて、しばしば修業者たちを赤面させた。

「なあ先生よ、云ってしめえなよ」

彼女たちは大きな声で云う。

「ぜんてえ先生は、おんだらの祖母さまたちの誰と本当に寝ただえ、お花ばあかえ」

「お梅ばあもお綾ばあも、おんだらんとこの祖母さまも、どこのええ(家)の祖母さまも云ってただ、内証のこんだがおらあの人と寝ただってよ」