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えせものがたり
似而非物語
山本 周五郎
「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页
聞いているうちに非常な感銘を受けたらしかった。顔面が硬ばり、眼が異様に光りだした。そして、杢助の言葉が終ったとたんいきなり庭へとびおりた。杢助は吃驚した、まるではじかれたようにとびだしたので、なにか乱暴なことでも始めるのかと思った。しかしそうではなかった。庭へとびおりた二之木は、暗い地面の上へ土下座をし、地面に両手をついて、涙のこぼれそうな眼でこちらを見あげた。
「有難きただいまのお言葉」
二之木は震え声で云った。
「牝鶏と娘どもに仮託した御教示、まさしく奥義の御伝授とうけたまわりました、流儀の秘伝、まさしく会得つかまつりました。かたじけのうござります」
そして彼は泣きだした。もちろん嬉し泣きであった。逞しい肩に波をうたせてやや暫く男泣きに泣いた。杢助は煙草をふかすのも忘れて、あっけにとられてそれを眺めていた。
――わけが知れねえ。
杢助は心のなかで思った。おらが牝鶏と娘をどうしたっていうだ、なにが御伝授だ、つまらねえ、ほんにわけが知れねえ。
二之木二郎は草庵を去った。秘伝を会得したから去ったのであった。この出来事は他の四人を感奮させた、想像以上に感奮させたようであった。