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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

「週刊朝日涼風読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 页

青空文庫

勤勉でなければ生きてゆけなかった、それにも拘らず杢助は怠け者であった。

彼が七歳のときのことであるが、父親の百助は習慣にしたがって、初めて彼を「出作り」につれてでかけた。その場所はかなり遠かった、途中で二た晩泊るほどの距離にあったが、五日めの午後になると、杢助はひとりで家へ帰って来た。留守をしていた母親は歯の根のゆるむほど驚いた。彼女は機からとびおりて、泥と垢にまみれたわが子を抱き緊め、おろおろしながら、どうして帰って来たのか、もしやはぐれでもしたのかと問い糺した。すると子供は大きな欠伸をして、ぐったりとそこへ横になった。それからさもうるさげに、こう答えた。

――だって、つまらねえもの。

杢助はなにものにも興味をもたなかった。物をねだるということがないし、友達と遊びさえしなかった。飯を食べるとすぐ寝ころんでしまうか、家の前の石垣の上にある石地蔵のところで、草の上へ足を投げだしたまま、下の道を往来する人や馬を、ぼんやりと飽きずに眺めているかした。そして、ときにこんなふうな独り言を云った。

――なにが面白くってあんなに毎日往ったり来たりするだかよ、おんなじように往ったり来たりよ、つまらねえ。